婦人科産科 井原クリニック
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診療内容
■不妊治療
不妊状態とは原因妊娠の成立診断可能な原因について
妊症の基本検査不妊症の二次検査一般不妊治療の具体的手順
[不妊症の基本検査]
表1 不妊症の基本検査

1. 問診
過去の病気、けが、手術、月経歴とその状態、妊娠歴、服用している薬について聞きます。避妊期間、不妊期間、不妊治療の既往のある人には、どのような治療を行なってきたか聞きます。

2. 内診
処女膜閉鎖、腟形成異常などはないか、そして子宮や卵巣の形や大きさ、圧痛の有無を調べます。子宮後方(ダグラス窩)の圧痛は子宮内膜症を疑います。

3. 基礎体温
朝目覚めて起き上がる前に口腔内で測る体温です。2週間位の低温相とそれに続く2週間位の高温相があるのが正常です。最終低温日が排卵に近く、最も妊娠しやすい日とされています。高温相が無く、一相性の場合は無排卵と考えられ、高温相が9日以内と短い場合は、黄体機能不全と診断されます。

4. 経腟超音波検査 〔図(14)〕
卵胞の発育、子宮内膜の厚さ、卵巣全体の状態などをモニターに映し出す検査です。
月経期には5mm程の卵胞が、排卵期には18〜20mm程になります。子宮体部の内膜は排卵期には10〜15mm位に厚くなってきます。
排卵前と比較することにより、実際に排卵が起こったかどうかモニターすることが出来ます。基礎体温が二相性であっても排卵せずに卵胞が黄体化することがあり、これを黄体化未破裂卵胞症候群といいます。
卵巣に多数の中小卵胞が見られる多嚢胞卵巣(PCO)、チョコレート嚢胞、卵巣腫瘍なども容易に診断出来ます。

5. 頸管粘液検査
排卵数日前から除々に増量し、排卵頃には0.4〜0.5mlに達し、含まれている食塩のため、火で乾燥させて顕微鏡でみるとシダの葉様の模様が見られます。このような定型的な変化が認められる粘液がある場合精子が泳いで上がりやすいのです。エストロゲンの分泌が少ない場合や、子宮頸管の円錐切除術などをしているときなどは分泌量が少なくなっています。

6.  精液検査
3〜5日以上の禁欲期間をおいて、マスターベイションで精液を容器にとります。コンドームには殺精剤が使われていることがあるので使用しないとされています。
正常精液所見(WHO 2010年)
精液量 1.5ml以上
精子濃度 1ml中に1,500万個以上
精子運動率 運動精子 40%以上
前進運動精子 32%以上
正常形態精子 4%以上
一般的な精液検査に加え、当院では精子の機能を詳しく判定する精子特性分析検査を行っています。 

7. フーナーテスト
排卵日頃に性交し、頸管粘液中の精子数を調べます。運動精子が多く見られる場合は、妊娠の可能性があります。〔図(15)〕。
フーナーテストの判定基準
(運動精子数/400倍視野当り)
15個以上
10〜14個
5〜9個
不良 4個以下
子宮内腔に細いチューブを入れて吸いとり精子が認められるかどうかを見る方法もあります。

8. 子宮卵管造影〔図(16)〕
月経が終わって数日という時期に、子宮頸管の入口から造影剤を注入して、子宮内腔の形や卵管の通過性を見るものです。また卵管周囲に癒着があるかどうかも判ります。
通水法や通気法では卵管の通過性はある程度わかりますが、子宮腔や卵管腔の形はわかりません。

9. 採血によるホルモン検査
排卵する機能はあるが、排卵した後に黄体が充分働いているのか、着床の邪魔をするようなホルモン因子はないか、などの検査になります。
  (a) LH(黄体化ホルモン)
FSHと共に下垂体から分泌され卵巣を刺激して卵胞を発育させるホルモンです。排卵の直前にピークを作るのでLHサージといいます。
下垂体前葉に異常のある場合、低い値が続きます。多嚢胞性卵巣など、卵巣の機能に異常がある場合は高値となります。
  (b) FSH(卵胞刺激ホルモン)
卵胞発育を促す下垂体ホルモンです。排卵の前に高値となり、頸管粘液の分泌を促します。年令的に卵巣の働きが落ちてくるとこのホルモンが上昇します。
  (c) PRL(プロラクチン)(乳腺刺激ホルモン)
産後ではないのにPRLが上昇する異常を高プロラクチン血症といいます。乳汁が出たり、黄体の働きを悪くして高温期が短くなったりして着床に悪影響を及ぼします。下垂体に腺腫ができていたり、ドグマチールなどの薬の副作用で上昇する事があります。
  (d) エストロゲン(卵胞ホルモン)
卵巣のなかの卵胞(卵子が入っている袋)の周囲の細胞集団から分泌されるホルモン。排卵が近づくと高値となり、頸管粘液の分泌やLHサージを促します。排卵が発育しないと低値のままです。
  (e) プロゲステロン(黄体ホルモン)
排卵した後の卵胞(黄体)から分泌されるホルモンで、体温中枢に作用して基礎体温を上昇させます。子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に変化させます。低値の場合は黄体機能不全となります。
  (f) テストステロン(男性ホルモン)
多嚢胞性卵巣があったり、副腎皮質に異常がある場合に高値になって排卵障害を来たす場合があります。
  (g) 甲状腺ホルモン
甲状腺機能の亢進や低下は女性に多い病気です。まず月経不順として現われることがあります。
  (h) 抗ミュラー管ホルモン(AMH)
卵巣内にあって卵細胞(卵子)を包んでいる卵胞が分泌するホルモンをAMH(抗ミュラー管ホルモン)という。
個人差があるが35歳頃から減ってくるのでAMHを測ることで卵巣年齢(卵巣予機能)(残っている卵子の数が判るとされています。
35歳を過ぎて不妊治療を続けている人は一度AMHを調べて低値の場合は早めに治療法をステップアップした方が良いかもしれません。

10. クラミジアに関する検査
クラミジアは性感染症の一種で、若い人を中心に罹患率が上昇しています。クラミジアが子宮頸管に感染するとおりものが増え、放置すると卵管から腹腔内に感染が及び、下腹痛を来します。その際、卵管が閉塞したり、卵管周囲に癒着が起こったりして不妊症の原因となります。感染しても自覚症状がない場合も多いのでやっかいです。従って無症状でも検査する必要があります。
  (a) 採血による血液中の抗体検査
IgA(+)、IgG(+)→クラミジアが存在する。
IgA(−)、IgG(+)→以前かかったことがある。
IgA(−)、IgG(−)→クラミジア感染はない。
  (b) 子宮頸管内分泌物の培養検査(抗原検査)
陽性ならばクラミジアが頸管内に存在するので治療を要します。
抗原が陰性でもIgG抗体が陽性で下腹痛がある場合は感染が否定できないので治療の対象となります。治療はパートナーと一緒の抗生物質の服用です。

11. 抗精子抗体―採血して調べます。
精子に対する抗体ができると(図(13))に示されるように、頸管粘液の中に精子が進入しにくくなり、子宮腟内では精子の運動率が低下し、受精や着床を阻害する作用があると云われています。(二次検査でもよいかも知れません)。


[不妊症の二次検査]
基本検査で異常を認めたり、不妊治療期間が長くなった場合は二次的検査が要ります。

1. 腹腔鏡検査 (図(17))
内視鏡を腹腔に入れて、子宮や卵巣の周囲の状態を観察する検査です。
  (a) 子宮卵管造影で異常が認められる症例。
  (b) 子宮内膜症が疑われる症例。
  (c) 原因不明不妊で治療しても妊娠しない症例。
  が適応となります。麻酔が必要で入院しての検査となります。


2. 子宮鏡検査 (子宮体ガン検査の図(8)参照))
内視鏡で子宮内をのぞく検査です。子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮奇形が疑われる場合に行ないます。

3. MRI検査→放射腺科紹介
子宮筋腫の位置と大きさ、子宮奇形の種類を確認したり卵巣腫瘤の鑑別に用いられます。

4. 男性に対する精密検査→泌尿器科紹介
精子の状態が悪い場合は泌尿器科で男性器の診察を受けてもらいます。症例によっては、
  (a) 血液検査(LH,FSH、プロラクチン、テストステロンの測定)
  (b) 精巣生検(精巣組織の一部を採取する検査)
  (c) 精管造影(精巣から尿道までの精子の通り道の検査)
  (d) 精子侵入検査(sperm penetration assay SPA)
  (e) 精染色体検査(転座などの特殊な染色体異常がかくれてないか)
  などを要します。


[一般不妊治療の具体的手順]

1. 最初の数ヶ月間 - タイミング療法
不妊治療について理解してもらい、基本的検査をすすめながら、排卵日を確認し性交のタイミング指導をします。
初診時 不妊についての検査、治療などの方法や問題点、妊娠の見通しなどの説明をします。
基本検査 既述の基本的検査をしながら不妊の原因を診断してゆきます。
タイミング指導 排卵日を予測し妊娠の可能性の高い日に性交を持つよう指導します。
経腟超音波で診て〔図(14)〕、一番大きな卵胞が1.8cm位になっているか?子宮体内膜が1.0cm近く厚くなっているか?透明な頸管粘液が増えてきて、シダ状結晶を作るか?
尿の中のLHホルモンが陽性となるかどうか?などを総合して排卵日を予測します。
基礎体温がキチンと記録されている場合は高温期に移る前後の数日間に排卵が起こることが予測できます。

2. 次の数ヶ月間
薬物療法による排卵促進と黄体機能不全の是正を試みます。
  (a) クロミフェン療法
経口の排卵誘発剤で卵胞の発育を促し、また黄体機能の改善を図る。クロミフェンに対し副作用のある場合セキソビットを用いる。
最近、フェマーラも追加された。
  (b) HCG療法
タイミング良く排卵させるとともに、黄体機能の改善を図る。クロミフェンを併用することもある。
  (c) その他
高プロラクチン血症のある場合はカベルゴリン(カバサール(R))を服用して排卵障害の改善を図る。
その他の薬物療法―ホルモン剤、抗生剤、など。

3. 次のステップ - AIH(人工授精)
卵巣からの過排卵と精子と卵管内へのそじょう遡上を促進し卵と精子の出合う確率を高めます。
過排卵刺激 → HMG−HCG療法
          FSH−HCG療法
人工授精(AIH) → 洗浄精子による人工授精
  精子と培養液を混和し遠心分離すると精子が下層に沈殿します。不良精子や細菌などが上層に残り比較的良好な精子が下層に含まれます。上層を除去し下層の部分を子宮腔内へ注入します。
さらに、運動精子のみを選別するために、培養液を重曹し、その中に遊泳してくる精子のみを採取することもあります。

4. 一般不妊治療の原則
以上の手順は欧米でも日本でも一般不妊クリニックで採用されています。
各検査の段階で明らかな異常が認められた場合、例えば子宮筋腫や子宮内膜症などに対する手術や薬物療法あるいは卵管通過障害に対する通記術や卵管形成術など、のように個別的な治療を要します。
有効性が証明されている治療法を選択することが重要です。

5. 一般不妊治療の原則
一般不妊治療で2年間近く妊娠しない場合は、
補助生殖医療(Assisted Reproductive Technology:ART)(体外受精IVFと顕微受精ICSIがある)による治療を考える必要があります。
最近では一般不妊治療でも妊娠の可能性がある場合でもAMHが低値という理由などですぐに
ARTに踏み切るケースもあります。今や日本は世界最大の体外受精大国です。
時間とお金のある人にとってはいいかもしれません。


         
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